6:
めるんめい
ID:Y2NiOTEyi(
6)
星の遺言・第五章:不可逆なる感触
ユウはベッドの端に腰を下ろし、両手を膝の上に乗せてじっとしていた。
身体の変化は日ごとに加速している。だがそれ以上に、内面の“境界”が崩れていく感覚があった。
「……触れたら、終わりだ」
自分に言い聞かせるように、声を出した。
だが、その言葉は空しく反響しただけだった。
...もっと見る
シャワー上がりの肌は柔らかく、薄く濡れたローブの下から体温が立ち昇る。
胸元に浮かぶ豊かな膨らみが、ユウの目を奪って離さない。
「……触れたら、きっと、もっと大きくなる……」
医療AIが以前、そう言っていた。
「この変化は加速的です。特定の刺激――特に自己認識を伴う“接触”が加われば、身体は女性ホルモンの分泌を自己強化し、乳房は発達を続けるでしょう」
それはまるで、生物としての「別のプログラム」が発動するスイッチのようだった。
だが、ユウは知っていた。
今、自分が恐れているのは――乳房が大きくなることでも、女になることでもない。
それは、“戻れなくなること”だった。
指揮官として、兄として、かつての“男としてのユウ・カミシロ”が、本当に遠ざかっていく気がして。
「それでも……こんなにも……」
ユウは右手を、ゆっくりと胸元へと伸ばしていった。
その動きは慎重で、それでいてどこか、夢の中にいるかのようだった。
指先がほんのわずかに、柔らかな膨らみに触れたその瞬間――
「……っ!」
電撃のような快感とともに、何かが解放された。
温かく、重く、確かに“生きている”としか言いようのないその感触が、脳を揺さぶる。
――じゅわり、と。
まるで応じるように、乳房がわずかに膨らんだ。
皮膚が張り、輪郭が柔らかく大きくなる。わずか数秒。だが、明らかに“変わった”とわかる。
「嘘……だろ……」
手を離しても、それは戻らない。
触れたことで、この変化は“不可逆”となった。
ユウは、震える指を胸元から引き剥がし、ベッドに仰向けに倒れた。
「……これが、俺の未来なのか……?」
天井を見つめながら、彼女――ユウ・カミシロは、ひとつの事実を受け入れつつあった。
望んでいなかったはずなのに、
この感触が、恐ろしいほど“満たされていた”ことを。
だがその感情すらも、彼女が星の命運を背負う艦長であるという現実からは逃れられない。
変わりゆく身体。
揺らぐアイデンティティ。
そして、その先にある――誰かとの未来。
目を閉じれば、どこか遠くで、星々の歌が静かに鳴っていた。
[Safari/iOS18.3.2]
[
返信] [
引用] [
編集] [
削除]
👍0 👎0
[
2025/04/22(火)23:30:32]