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めるんめい
ID:Y2NiOTEyi(
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星の遺言・第四章:鏡の奥にいる私
夜。〈アウロラ〉の艦長室は静まり返っていた。
戦闘の報告書も、ヴェルナとの戦術シミュレーションも終わり、ユウは独り、鏡の前に立っていた。
「……また、変化が進んでる……」
シャワーを浴びた後、バスローブを羽織ってもなお隠しきれないものがあった。
胸の膨らみ。丸みを帯びた腰。指先の柔らかさ。
視界の端に映る「女としての自分」は、日に日に違和感よりも“馴染み”に近づいていく。
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それが、怖かった。
ユウは鏡に触れた。
「俺は……男だった。ずっと。だけど……」
身体が自分に語りかけてくるようだった。
心のどこかに、触れてはならない“好奇心”が生まれていた。
——この胸に、もし手を伸ばしたら。
——もし、感じてしまったら。
「……ふざけんな……」
思わず口にしたその言葉に、自分でハッとする。
誰に怒ってる?この身体に?
それとも、自分の“欲”に?
ヴェルナの声が、ドアの外から届いた。
「艦長。おやすみ前の心理スキャンをおすすめします。今日の貴方は……心が揺れている」
「放っておいてくれ。……今は、ひとりにしてほしい」
「……わかりました。だが艦長。貴方が何者であろうと、私は“ユウ・カミシロ”を艦長として認識し、支えます」
ユウは鏡に映る自分を見つめながら、小さく吐き出すように言った。
「……欲望って、怖いな……。
こんな身体になったからじゃない。
この胸を“女だから触れてはいけない”と考えてる時点で、
俺はまだ“男”でいたいと思ってるんだ。
でも……触れてみたいって思う自分も、確かにいるんだよ……」
目を伏せて、苦笑した。
「なんてこった。銀河の命運を握ってる俺が……自分の身体に振り回されてやがる」
そう呟いて、ユウはベッドに倒れ込んだ。
欲望と理性のあいだ。
男としての記憶と、今の感覚のあいだ。
その境界線で揺れる心に、深く静かな夜が降りていく。
だがユウはまだ知らない。
この“変化”すらも、星の遺言に刻まれた真実のひとつであることを――。
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2025/04/22(火)23:29:53]