13:
めるんめい
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星の遺言・第十二章:思い出の影
鏡の前で立ち尽くしていた。
揺れるカールのかかった長い髪。
胸元で揺れる大きな存在感。
ウエストにそってぴったりとフィットするシャツ。
――そして、スカート。
「……まるで、あの頃の姉さんみたいだ」
...もっと見るふと、懐かしい記憶が蘇る。
ユウがまだ幼かったころ。
姉のマナは、いつもキラキラしていた。
ピンクのワンピースに白いヘアバンド。
笑うたびに耳飾りが揺れて、周囲の注目を一身に集めていた。
「マナ姉ちゃん、きれい……」
ぽつりと呟いた言葉に、マナは微笑んで頭を撫でてくれた。
「ユウも女の子だったら、いっしょにおしゃれできたのにね」
その言葉が、心に刺さった。
“女の子だったら”
本当はなりたかった。
でも、男として生まれたから。
マナはもう一度笑って、言った。
「でもユウは男なんだから、もっと男らしくしないと。
泣いたらダメ、スカートなんて興味持っちゃダメだよ?」
あのとき感じたのは――
怒られた悲しさじゃない。
“否定された”という静かな絶望だった。
「ずっと……そうしてきたんだ。
男らしく、強く、姉さんが望んだ通りに……」
でも、本当はずっと。
姉のように綺麗になりたかった。
スカートをはきたかった。
メイクを真似してみたかった。
声を柔らかくして、鏡の前で“かわいい”って言ってみたかった。
本来の“俺”は――
最初から、“私”になりたかったのではないのか?
「……こんな形じゃなくても……きっと、俺は――いや、“私は”」
声が震えた。
でも、胸の奥で何かがほどけていく感覚があった。
「マナ姉さん……もし、今の私を見たら、どう思うだろう……」
鏡に映った自分が、小さく笑った気がした。
それは、あのころの“なりたかった自分”に、
ほんの少しだけ近づいた気がしたからだった。
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2025/04/23(水)00:20:56]