11:
めるんめい
ID:MDhmNDE3i(
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星の遺言・第十章:絶対に嫌だ
ピピッ、と警告音が鳴ったわけじゃない。
でも身体の奥から、はっきりと“それ”は来た。
「っ……ちょ、まじか……今かよ……」
尿意。
それは突然、でも確実に彼女を支配し始めた。
...もっと見る「いやだ……いやだ……こんなの、今の俺には無理だ……っ」
トイレに行くこと。
ただそれだけの行為が、今や“男”としての自分を終わらせる儀式のように思えた。
「違う……違うって……」
でも膀胱は容赦なく圧を強めてくる。
足を組んで耐える。体を丸めて息を止める。
けれど限界は、もうすぐそこだった。
「くそ……っ、なんでこんなことに……っ」
脱衣室に向かいながら、ユウの心はぐちゃぐちゃだった。
男だったときは、ただチャックを下ろして済ませるだけの話だった。
でも今の身体じゃ、そうはいかない。
個室に入って、服を脱いで、座って――
「絶対に無理だ……座るなんて……俺は……っ」
でも脚は勝手に動いていた。
扉のロックが自動で閉まる。
トイレの蓋を上げたその瞬間、ユウの中で何かが崩れた。
「やめろ……俺は……俺は男なんだぞ……!」
でもズボンと下着を下ろす手は止められなかった。
目をそらしたまま、そっと腰を下ろす。
冷たい便座に肌が触れる。
ただそれだけのことが、信じられないほどの敗北感だった。
「っ……あああ……っ」
音が響く。
女の身体で流れる尿の感覚は、明らかに違っていた。
角度も、流れ方も、音すらも……まるで“別人の行為”だった。
「なんで……俺が、こんな……」
膝に腕を抱え、顔を伏せる。
涙は流れなかった。
けれどその代わりに、心がきしむように軋んだ。
ただ、終わったあと。
ふと、洗浄機能が作動し、温風が肌に触れた瞬間――
「……悪く、ない……?」
その考えが、頭の奥にうっすらと浮かんだことに、自分自身でゾッとした。
――私、か。
――もう、戻れないのかもしれないな。
否定するたび、言葉が“私”に近づいていく。
変わっていくのが嫌だと叫びながら、
どこかでその変化を“受け入れていく心地よさ”に気づいてしまっていた。
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2025/04/23(水)00:17:15]