9:
めるんめい
ID:MDhmNDE3i(
8)
星の遺言・第八章:取り戻せない声
「な……っ、なにこれ……っ」
艦長室のバスルーム。
鏡の前でバスローブを開いた瞬間、ユウの声が裏返った。
乳房は、また一段と大きくなっていた。
丸く、張り、肌のハリすら女そのもの。片手では収まらないほどの質量がそこにあった。
...もっと見る「俺は……こんなつもりじゃ……っ」
言葉が、どこか不自然に喉を滑っていった。
さっきから妙に柔らかい。自分の声が、少しずつ女の高さに変わってきているのだ。
「お、俺は……っ、こんな……ちがっ……私……? 違う、違う、“俺”だ……!」
言い直そうとすればするほど、“私”という言葉が自然に口から漏れてくる。
「ちくしょう……俺は男なんだ……ッ」
でもその瞬間、バスローブの隙間から零れ落ちた大きな胸が、自然と腕に収まり、
その柔らかさに、脳が痺れるような快感を覚えた。
「……あっ……」
情けない声が漏れた。
反射的に口を塞ぐ。
誰かに聞かれたら終わりだ。
艦長としての威厳も、男だった自分も、すべて――
けれど、ユウの心は、もう知ってしまっていた。
この身体の感触が、悪くないことを。
この柔らかな声が、誰よりも心地よいことを。
「……違うんだ……これはホルモンのせいで……」
そう言いながら、鏡に映る“自分”の表情が、どこか嬉しそうなのに気づいてしまった。
「うそ……だろ……」
頬がほんのり赤く染まり、瞳が潤み、長い睫毛が自然に色気を帯びる。
この顔で“私”と口にしても、何の違和感もない。
むしろ、それが本来の自分だったかのようにすら思えた。
「俺は……嬉しいのか……? 本当に……?」
問いは、誰にも届かない。
でも心の奥で、確かに声が囁いていた。
——ようこそ。“私”へ。
ユウは、唇を噛み締める。
それでも、ほんの少しだけ上がった口角は、もう“取り返せない”という現実を語っていた。
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2025/04/23(水)00:11:53]