12:
めるんめい
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星の遺言・第十一章:順応という裏切り
「また……だ」
ユウは艦内の廊下に立ち尽くしていた。
誰もいない時間を選んで移動していたのに、歩くたびに感じる腰の揺れや太腿を擦るスカートの感触に、もう驚かなくなっている自分に気づいた。
「おかしい……おかしいだろ……」
初めは違和感だった。
...もっと見る胸の重み。ヒップの揺れ。歩き方さえ、自然と女性的な動きになっていく。
何より、自分がそれを“直そう”としなくなっていることが、何よりも恐ろしかった。
「どうして……意識してたのに……俺は……“男”だったのに……!」
思わず壁に手をつく。
息が荒れる。
このまま変わっていく自分を止められないことへの、どうしようもない無力感が喉を締めつけた。
ふとした瞬間に“髪をかき上げる仕草”が自然に出ていた。
誰かの視線を感じたとき、思わず背筋を伸ばして“見られること”を意識していた。
「やめろ……そんなの……俺じゃない……!」
だが、内心で浮かんだ別の声があった。
……でも、悪くなかった。
見られている、と思うことに、どこか高揚する自分がいた。
「ちがっ……それは、違う……っ!」
呟いた声が、もう男のものではなかった。
高く、細く、どこか柔らかく――完全に“女性の声”。
そのことに気づいた瞬間、頭の奥で何かが崩れる音がした。
「……こんな声、いつの間に……俺……“私”なんて……!」
つい先日まで「私」と呼ぶことすら強烈な拒絶感があったのに、
今では“そう言わないと落ち着かない”ようになっている。
順応していく。
身体だけじゃない。
心も、言葉も、反応も、すべて“女性”としてのそれに染まっていく。
裏切っている気がした。
男だった自分に。
昔の自分に。
笑い合った仲間たちに。
「……ごめん……ごめんな……俺、もう……戻れないかもしれない……」
ユウは小さくつぶやいた。
涙はこぼれなかった。
けれどその代わりに、胸の奥が空洞になったようだった。
彼女は、立ち尽くしたまま、自分の指先を見つめた。
細く、柔らかくなったその手が、
いまや“元の自分”にはまったく馴染まないものになっていることに、静かに気づきながら。
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2025/04/23(水)00:18:52]