10:
めるんめい
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8)
星の遺言・第九章:着られない日常
朝。
ユウは寝ぼけた頭でクローゼットを開け、いつものTシャツに手を伸ばした。
軍服じゃなくて、かつて地球時代に愛用していたグレーの一着。
「……やっぱこれが一番落ち着くよな」
そう言いながら、頭から被る。
が――
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「……う、ぐっ……あれっ……?」
胸が、引っかかった。
布が伸びない。
いや、伸びているが――明らかに限界を超えている。
「ちょっ……待って……」
布地が乳房に張り付き、パツパツの状態で止まった。
裾はウエストまで届かず、ボタンも何もないから伸びた分が戻ってくる。
「なんで……これ、普通に着てた服なのに……」
鏡を見る。
胸の膨らみがTシャツを無理やり持ち上げていて、
生地が乳首の位置にピタリと張りつき、輪郭まで浮かび上がる。
「う、うわ……っ、これじゃ外に出られない……!」
すぐさま脱ごうとするが、今度は胸に引っかかってなかなか脱げない。
「脱げないって何だよ……俺、こんなじゃなかっただろ……!」
やっとの思いで脱ぎ捨てたそのとき、ふと足元を見る。
引っ張り出したスニーカー――地球時代のもの。愛着のある黒。
片足を入れようとするが、入らない。
「は……? いや、違う、これは縮んだんだ、きっと……っ」
足は細くなっているはずなのに、甲が高く、指がつかえてつま先が入らない。
「まじかよ……俺の足じゃ、なくなってきてる……?」
服も、靴も、もう“今の自分”には合わない。
「……そんなはず、ないのに……」
その瞬間、体中にひやりとした実感が走った。
今までの“俺”が、少しずつ、消えていっている。
「服くらい……普通に着られると思ってたのに……」
声がかすれた。
だけど――
どこかでその“似合わなさ”に、納得している自分もいた。
「女物なら、着られるかもな……」
ふとよぎった考えに、自分で愕然とする。
だが、脳裏に浮かぶのは、あの白いワンピース。
そしてそのとき自分が感じた、“フィットする安心感”。
「俺、ほんとに……戻れなくなってるのか……?」
ユウは崩れるように床に座り込んだ。
脱ぎ捨てたTシャツは、今の自分には小さすぎた。
――変わっていくのは、身体だけじゃない。
日常が、記憶が、感覚までもが、“彼女”に合うように作り変えられていく。
それが怖いはずなのに、
胸の奥では、ほんの少しだけ、嬉しいと感じてしまった。
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2025/04/23(水)00:12:59]